見る者の感情を動かす構成力と表現力、めぞんの漫才

この記事では、M-1グランプリ2025の決勝(ファーストラウンド)で披露されためぞんの漫才ネタ「女友達」を書き起こし、その感想を書いていきます。

※漫才タイトルは内容から勝手に決めたので正式なものではありません

このブログでは漫才の書き起こし記事を書くことがありますが、ネタを書き起こすことで、動画やライブを観るだけでは気付くことができない構造的なテクニックや言葉のニュアンス、言い回しの面白さを発見できるのではないかという意図があります。

しかしながら、漫才は当然、漫才として観たほうが絶対に良いので、めぞんの漫才を観たことがない方は、この先の書き起こしを読む前にぜひ何らかの方法で漫才を観てみてください。

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めぞんとは

まずはめぞんというコンビを簡単に説明しておきます。

めぞんは吉本興業に所属するコンビで吉野おいなり君原一刻から成ります。

2016年結成。M-1グランプリ2025で初めて決勝進出。それまでの戦績は以下の通りです。

2016年 1回戦敗退
2017年 1回戦敗退
2018年 2回戦敗退
2019年 2回戦敗退
2020年 2回戦敗退
2021年 2回戦敗退
2022年 2回戦敗退
2023年 3回戦敗退
2024年 2回戦敗退

吉本興業プロフィールM-1グランプリ コンビ情報

めぞんの漫才「女友達」の書き起こし

 原と吉野でめぞんです。お願いします。ありがとうございます、頑張っていきましょう! (吉野に向かって)あのさ。
吉野 はい。
 この前、女友達から面倒くさい相談されてさ。
吉野 面倒くさい相談。
 そう、そいつミキってやつなんだけど。
吉野 ミキ。
 そう。なんか彼氏のフリしてほしいみたいな。っていうのも、そのミキが、女友達に「彼氏いる」って言っちゃったらしくて。それで俺に、「今度、その子の前で彼氏のフリしてほしい」って頼んできたんだよね。いやこれ、バレないようにするのむずいよな?
吉野 本当に面倒くさいと思ってる?
 ……え?
吉野 え、女友達の彼氏のフリするだけだもんな?
 まあまあ、そうだけど。
吉野 楽しいことじゃない?
 いや、楽しくないよ。
吉野 親密な女友達がいるっていうアピールに聞こえるんだけど。
 ……。
吉野 最後にできた女友達が小6のときに男子に混ざって遊戯王カードやってくれてたタカダさんで終わってる俺への当てつけ?
 あ、違うよ。そんなつもりないけど。
吉野 え、楽しいことじゃない?
 だから楽しくないって。
吉野 え、だって、その女友達に紹介されたときにその女友達が「え、ふたりって本当に付き合ってるの? なんかよそよそしくない?」とか言ってきて、焦ったミキがお前の腕を組んで「え、そんなことないよ、仲良しだよ」とか言って、お前も「おい、勝手なことすんなよ!」「しょうがないでしょ! 合わせなさいよ!」じゃ、ちょっと待ってくれ、良すぎるだろ!
 何? 何、今の、急に?
吉野 え、こうなったとしたら? こうなったとしたら楽しいだけだが?
 まずそんなことになんないし、なったとしても俺、嬉しくないから。
吉野 は?
 俺、ミキのこと女として見てないから。
吉野 出た、最悪な言葉! 女として見てない、女だと思ってない! いやいや、お前が女と思ってるかは関係なく、その子は女の子だから。神様でさえ人の性別を決められないこの時代にお前が勝手に人の性別を決めるなよ。え、もしくは眼鏡の度が合ってなくて本当に女の子に見えてないとか? だとしたら今すぐ外したほうがいいよ、その色眼鏡を。
 何言われた? どういう意味、今の?
吉野 そのキモい色眼鏡外せよ。
 着けてねえよ、別に。
吉野 いや、お前が何と言おうとミキは女の子なんだから。腕を組んだら、嬉しいじゃん!
 ……いや、別に。
吉野 どう思われたいの?
 何が?
吉野 強がんなよ、お前。
 だから強がってないって。
吉野 じゃあじゃあ、その女友達の家に行ったときにね、その女友達が「もう遅い時間だし、ふたりとも泊まっていったら? そっちのベッド使っていいよ。え、付き合ってるんだし、別に同じベッドでもいいでしょ?」って言われてミキとふたりで添い寝することになって、朝起きたらミキの顔が胸の上にあって上目遣いに「おはよう」って言われたら?
 ……マジで何も思わない。
吉野 (大きく息を吐く)……(客席に)流石に強がり過ぎですよね、こいつ?
 いや、俺、自分んちで寝たい派だしな。
吉野 え、今、そんな話してない。
 いや、違う違う違う。
吉野 今、お前が自分んちで寝たい派かどうかなんて話してないんだけど。
 違うって。
吉野 あ、焦って返事間違えてるよ。
 いや、俺らそういうのじゃないから。ミキから恋愛相談されたことあるし。
吉野 強がんなって。
 強がってないって。ミキのこと、そういう目で見てないから。
吉野 ミキはどうだろうね?
 ……は?
吉野 お前、さっきから、ミキの気持ちが置き去りだよ!
 お前、誰なんだよ! 誰目線?
吉野 いや、ミキはお前に彼氏のフリをお願いしてるんだよ。他の友達とは違うだろ。そのミキの気持ちを考えろ!
 ミキも何も思ってねえよ。
吉野 分かんないだろ、それは!
 何も思ってないって。
吉野 分かんないだろ、それは!
 一回俺から告白したときにフラれてるから。
吉野 逃げろ!(後方に回転しながら倒れこむ)
 何が!?
吉野 今、俺の目の前で何が起きたんだ!
 ……だから、俺から告白したときに「友達にしか見えない」って言われてフラれてるから。でもそれでも友達でいたいって言われたから。じゃあそういう目で見るのやめようって思って。そっから一切、そういう目では見てないよ。だから彼氏のフリも、何の感情もない俺に、頼んできたんだよ。
吉野 お前、本当に強がってたのかよ!(原を抱きしめる)ごめん! お前えらいよ! 恋愛相談、よく耐えたな! (抱きしめるのをやめて正面に向かって)本当の敵はミキだ! おいミキ、聞いてるか? こいつはあんなの彼氏になりたかったんだよ、でもそれが叶わないから彼氏のフリをするんだよ! こいつはな、あんた無しでも生きていけるよ、でもあんた無しじゃ生きていたくないんだよ! 行きますよ! 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ!(BGMとして「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」を歌う)
 (正面に向かって)ミキー! 好きだー! ……俺さ、お前ともし腕を組んだら、ドキドキする! 俺はお前のことを女としてしか見れない! (眼鏡を外す)色眼鏡はもう外した! ……彼氏のフリ? いいよ、やってやるよ! でもな!
吉野 (歌うのをやめる)
 フリで終わると思うなよ。
二人 (「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」のサビを歌う)
 (原だけが歌い続ける)
吉野 タカダさん! また一緒に遊戯王カードやろうね!
 なんだこれ! もういいよ! どうもありがとうございました!

感想

このネタはある1点を境に原の状況が想定したものではないことが発覚し、それが吉野と原の関係性を変化させ、それが見る人にとってある種の裏切りとなることで笑いが起きる構造になっています。

二人の関係性の変遷

ミキという女友達から彼氏のフリをしてほしいと頼まれる原に対して吉野は本当は嬉しいのに面倒くさいと強がる奴」という視点で接しています。これが前半。

前半は「面倒くさくない、楽しいだろ」⇔「面倒くさい、楽しくない」、「本当は女として意識してるだろ」⇔「何も思ってない」というお互いに対してベクトルが向きます。

しかし、途中で原が一度ミキに告白してフラれていることが発覚。

吉野は、実は原が「本当は好きなのに何も思っていないと強がる奴」であることを理解し、ふたりのベクトルが共通のミキに向かいます。

前半と後半で、同じ「強がる奴」ではあるが、その実、全然異なる人物像を作り上げているというのが、とても繊細で、でもしっかりと見ている人にも分かりやすい裏切りで、ネタの中に引き込む力がとても強いネタだと感じました。

吉野の表現力

構成力の高さもさることながら、見る者を引き込み、各所で笑いを増幅させているのが吉野の表現力です。

捲し立てる口調で原を追い込む際にも、自虐を織り込むことで痛々しくならない塩梅を作り出しています。

また、原が一度告白してフラれていることが発覚したときの反応が「逃げろ!」であることは、意外性と共感という相反する二つを両立させる、唯一無二の表現のようにも感じます。

原に対する感情と「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」

そして最後に、ネタを見ている人の原に対する感情を「ちょっといけ好かない奴」から「本当は辛いのに頑張ってた奴」に変化させるための後押しとして使った音楽の力(「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」とサンボマスター・山口氏を模したパフォーマンス)。これは元ネタを知っているか否か、そういう手法を好きか嫌いかで評価が分かれるところかもしれませんが、私はまんまと乗せられた側です。

最後にタカダさんへのメッセージで伏線を改修したところも含めて、繊細に、でも情熱的に作られたネタであると感じました。面白かったです。