
この記事では、M-1グランプリ2025の決勝(ファーストラウンド)で披露されたエバースの漫才ネタ「ルンバ車」を書き起こし、その感想を書いていきます。
※漫才タイトルは内容から勝手に決めたので正式なものではありません
このブログでは漫才の書き起こし記事を書くことがありますが、ネタを書き起こすことで、動画やライブを観るだけでは気付くことができない構造的なテクニックや言葉のニュアンス、言い回しの面白さを発見できるのではないかという意図があります。
この後の書き起こしは漫才のネタそのものなので、まだエバースの漫才を見たことがない人は読む前に配信サービス等で見てみてください。
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エバースとは
まずはエバースというコンビを簡単に説明しておきます。
エバースは吉本興業に所属するコンビで佐々木隆史と町田和樹から成ります。
2016年結成。M-1グランプリ2024で初めて決勝進出。M-1グランプリ2025では2年連続2回目の決勝進出となります。それまでの戦績は以下の通りです。
| 2015年 | 1回戦敗退 |
|---|---|
| 2016年 | 1回戦敗退 |
| 2017年 | 2回戦敗退 |
| 2018年 | 1回戦敗退 |
| 2019年 | 3回戦敗退 |
| 2020年 | 1回戦敗退 |
| 2021年 | 3回戦敗退 |
| 2022年 | 準々決勝敗退 |
| 2023年 | 準決勝敗退 |
| 2024年 | 決勝戦4位 |
エバースの漫才「ルンバ車」の書き起こし
町田 どうも町田と佐々木でエバースと申します。お願いします。
佐々木 ありがとうございます。
町田 ありがとうございます。
佐々木 あの、最近、僕、イイ感じの女の子がいるんですけど。
町田 へえ、そうなん。
佐々木 そうそうそう。その子がね、ドライブデートしたいって言うもんですから、それだったらおれ車あるから、車出すから一緒にドライブデートしようっていう話になって。
町田 へえ、そうなん。
佐々木 明日ね、神奈川県の江ノ島水族館までドライブするんですよ。
町田 あ、えのすいまで。へえ、そうなん。
佐々木 ただ一個だけ問題があって。
町田 問題? どうしたの?
佐々木 あの、おれ、ホントは車持ってないんだよね。
町田 だよな。若手芸人、車なんか持ってないもんな。
佐々木 ちょっと見栄張っちゃってね。
町田 嘘ついた? え、どうすんの、それ? 明日だろ?
佐々木 だから町田にちょっとお願いがあるんだけど。
町田 おれにお願い?
佐々木 うん。
町田 いやムリよ。確かに神奈川の実家に車あるけど、そんな急遽は借りらんないから。
佐々木 あ、さすがにそれは迷惑かけるから、大丈夫。親の都合だってあるわけだから。
町田 もちろん、そうよ。
佐々木 それは大丈夫。
町田 え、じゃあ、何、お願いって?
佐々木 あの、明日、町田に車やってほしいんだよね。
町田 ……え、え? 車?
佐々木 そう、町田って人間の中ではだいぶ車っぽいほうじゃん。だから、おれが、町田に乗り込んでその子のこと迎えに行ったら、おれ、車持ってることになんのよ。
町田 ……え、それはなんで実家の車より迷惑じゃないって思ってんの? 余裕で迷惑なんだけど。
佐々木 あ、もちろん、その町田の言いたいこともわかるよ。エンジンもガソリンも無いのに、何を原動力に走りだせばいいんだよって。
町田 まだそこまでたどり着いてねえよ。おれ、まだ全然手前の話してるよ。
佐々木 あ、そうなの?
町田 まずおれ、車できないの。
佐々木 え、町田って車できないの?
町田 できないよ。
佐々木 なんで?
町田 人間だもの。
佐々木 ……みつを?
町田 ……町田。
佐々木 あ、町田か。
町田 え、それ、レンタカー借りるとかダメなの?
佐々木 レンタカーはさすがにムリだろ?
町田 (客席に)別にレンタカーでいいっすよね?
佐々木 だって、おれ、車の免許持ってないもん。
町田 怖、こいつ。めっちゃ嘘ついてるじゃん、お前。
佐々木 (ちょっと引いて笑いながら)いや、車の免許持ってたら、レンタカー借りるだろ。
町田 ……あ?
佐々木 車の免許持ってないから、お前のこと車にしたいっていう話してんじゃん? なんで、おれ、車の免許持ってんのにレンタカー借りずにお前のこと車にすんだよ、意味わかんないだろ。
町田 (客席に)え、今、どっちが変な奴ですか? さすがに(佐々木を指して)こいつですよね?
佐々木 いやいや、お前だよ。
町田 正直に言って謝るしかねえって。
佐々木 でも正直に言っちゃったら嘘ついてることになるんだよ。
町田 しょうがねえって。
佐々木 嘘つく男って一番嫌われるからね。
町田 人を車にしてる奴のほうが嫌われるよ。まず女の子びっくりするだろ。
佐々木 なんで?
町田 最近イイ感じだと思ってた男が急にこんな刈り上げに乗って登場すんだぞ。お前、ワンピースの天竜人来たかと思われるだろ。
佐々木 ……いや思われないだろ。
町田 思われねえよ、実際は。
佐々木 (客席に)思われないですよね?
町田 天竜人か、とか例えてる場合じゃねえから。それどころじゃない、「何してんの、何してんの?」だから、まず。
佐々木 でも、そこはね、安心して大丈夫なのよ。
町田 何が大丈夫なんだよ。
佐々木 その子に、おれの車の写真なんだよねって言って、ジープの写真をね、見せて、ジープの写真をこう何枚もスライドさせて、徐々に町田の写真に変えてったの。
町田 なんだそのアハ体験!
佐々木 え?
町田 絶対、境目があるだろ、おれとジープの間には。
佐々木 え、どういうこと?
町田 何枚かスライドしてたらギュンっておれが急に出てくるだろ。
佐々木 だから、そこはね、安心して大丈夫なの。
町田 百歩譲ってな、百歩譲ってそうだったとして、エンジンもガソリンも無いのに、何を原動力に走りだせばいいんだよ。
佐々木 ……やっとたどり着いたか。
町田 ここでだよ。
佐々木 それは、ルンバを4つセットして。
町田 ルンバ?
佐々木 そう。その上に町田が四つん這いになって、おれがそれに乗って、うまい棒とかをいっぱい食べさせていくから、そしたら町田はうまい棒をこうポロポロ落とすじゃん。それをルンバが掃除しようとして、どんどんこうやって進んでいくから。
町田 お前、人のこと舐めんのもいい加減にしろよ。
佐々木 え?
町田 4WDだからジープと一緒だ、じゃねえんだよ。
佐々木 でも、そうすれば車として前に進めるだろ。
町田 あの、人として後ろに下がってんの。ルンバの上にこうした時点でだいぶ後退してるから。
佐々木 これで江ノ島水族館行くから。
町田 えのすいは遠いだろ。
佐々木 え?
町田 それ、着くまでにおれ、うまい棒何千本食えばいいんだよ。せめて都内とかだろ。……都内も嫌だよ。なんで、おれ、都内だったらいいんだよ。
佐々木 いやいや、都内はね、おれも嫌なのよ。
町田 なんで都内嫌なんだよ。
佐々木 駐車場代めっちゃ高いじゃん。
町田 おれ、駐車場代かかんねえよ。
佐々木 ええ!?
町田 おれ、お前らがいなくなったら、おれ、こうやって(真っすぐ立つ)待てます。
佐々木 え、待てる?
町田 普通に道でこうしてます。
佐々木 それでおれと女の子戻ってきたらどうすんの?
町田 だから、すぐこうなりゃ(四つん這い)いいだろ。
佐々木 お前、なる瞬間見られたら終わりだろ。
町田 連絡しろや。
佐々木 え?
町田 5分前とかに連絡しろ。どうすんだ、人間から車になるところ見られたら。トランスフォーマーだと思われちゃうだろ。
佐々木 思われねえよ。
町田 思われねえよ、実際は!
佐々木 絶対思われないよ。
町田 トランスフォーマーか、とかじゃねんだよ、その状況。
佐々木 え、じゃあ、お前、路上でずっとこうやってる(四つん這い)ってこと?
町田 しょうがねえだろ。
佐々木 そのとき、警察来たらどうすんだよ、駐禁切られるだろ。
町田 駐禁切られないけど尿検査されます。
佐々木 え、どういうこと?
町田 ルンバの上でこうやってる(四つん這い)人間、尿検査確定です。で、尿検査して、陰性。怖。「こいつ陰性なんかい」ってなるわ。
佐々木 どういうこと?
町田 頼むから陽性であってくれ、こいつは。
佐々木 え、なんで?
町田 ルンバ車(ぐるま)の陰性が一番怖い。
佐々木 なんで?
町田 なぜなら、まだこいつを裁く法律がこの世に無いから。一番怖い。
佐々木 なるほどね。
町田 警察もテンパる。
佐々木 じゃあ、やめたほうがいい?
町田 やめたほうがいい。
佐々木 バイクとかなれる?
町田 いやなれるかー。
二人 どうもありがとうございました。
感想など
このネタの面白さは下記の3つのポイントによるものです。
- 話に引き込む力
- なぜか町田がおかしなこと言ってる雰囲気
- いつの間にか町田が協力的
1.話に引き込む力
佐々木が持ち出した話題は一見、現実離れした内容なのに、見ている側の私たちはその世界についつい入り込んでしまいます。
確かに佐々木の目的にはリアリティがありません(町田に車をやってもらう)。
けれど、「免許持ってるならそもそもこんなお願いせずにレンタカー借りるだろ」「ジープの写真を何枚もスライドさせていくうちに町田に切り替えていく」「町田にうまい棒を食わせる→ボロボロ落とす→それを掃除しようとするルンバが原動力になる」といったアプローチはとても真っすぐな理屈で生成されているため、矛盾がなく、妙な説得力が生まれます。この「矛盾のなさ」は見ている人を引き込む力になるのです。
2.なぜか町田がおかしなこと言ってる雰囲気
佐々木が一貫して何の疑いもなく町田に車をやってもらおうとすることで、「変なことを言っているのは町田のほう」という雰囲気が終始漂っています。
これ、めちゃくちゃテクニカルなことをしているなと思っていて、
実際:佐々木が変で町田が普通
佐々木視点:町田が変で佐々木が普通
という状況を作り出して、そのちぐはぐさが笑いを生み出しているように感じます。
町田の「ワンピースの天竜人来たかと思われるだろ」「トランスフォーマーだと思われちゃうだろ」という例えに対して、佐々木が「いや思われないだろ」「思われねえよ」と返しているところとか顕著ですよね。
3.いつの間にか町田が協力的
佐々木のアプローチに対して町田はとても丁寧に対応していて、もちろん「車できない」の方向で話を進めていくのですが、途中から「せめて都内とかだろ。……都内も嫌だよ。」「おれ、駐車場かかんねえよ」「5分前とかに連絡しろ」と「車やる」方向で話をしているところ、単純に笑っちゃいますよね。
書き起こしてみて、最初から最後まで無駄な部分のない構成で、それが笑いの量にも繋がっていて、本当に素晴らしいネタだなと思いました。